国分寺の「福の湯」が今月末で店仕舞いをすると聞き、廃業3日前の日曜日に訪れました。
国分寺駅から北上すること7,8分のところに「福の湯」はあります。
通り過ぎてしまいそうな、あまり人目をひかない小さな入口に、「1月31日を以て閉店します。長い間ご利用頂き厚く御礼を申し上げます。」と書かれた紙が貼ってありました。「閉店」の文字だけ赤字になっているのが、なぜか寂しげに感じられました。
女湯と書かれたドアを開けると、中はまさに昭和の脱衣場。その先に、光の差し込む浴室が広がります。
創業から55年。先代のご主人でしょうか、ご老人が大きな藤の脱衣籠を片づけています。番台に座った女将さん(若女将?)から、「おじいちゃん、……」と声をかけられていました。
脱衣場も、ガラス越しに広がる浴室も、随所に昭和銭湯の趣があふれています。特に目を引くのが、木の格天井から鉄の鎖で吊り下げられた大きなランプ。4本の蛍光灯が天井扇のように組み合わさっていて、空間にすごくマッチしています。当時はモダンなものだったのでしょうが、今では昭和レトロの風格です。
4時を数分過ぎたばかりでしたが、すでに中には先客のお年寄りが一人腰かけていらっしゃいました。大きな窓のある明るい洗い場。常連さんが来ることを思い、一番下手に席を取りました。
壁には富士山のペンキ絵。西伊豆の風景で、今は亡き早川利光さんの筆。つい最近描かれたように綺麗ですが、平成19年作。貴重な作品です。残すことは難しいのでしょうか… 随分開放的な雰囲気で、何と右はじに小さくバスが描かれています。ペンキ絵でバスは初めてです。きっと子供たちが喜んだことでしょう。ペンキ絵の下の錦鯉のタイル画も、色はややあせてはいても、華やかです。湯船のタイルは、深い緑色。深風呂と浅風呂のシンプル風呂でゆっくりできました。
隣の男湯では、常連さんたち数名が、今日の朝食の献立話で盛り上がっています。
途中、小学生の姉妹がふたり連れで浴室に入ってきました。子供ふたりで銭湯に来たのかしら… てきぱき、丁寧に洗っているところを見ると、随分、銭湯慣れしているなと思っていたら、5、6分後におばあさんも続いて入ってきました。
薪で沸かしたお風呂で、体の芯からあったまりました。
風呂から上がり、脱衣場にいると、先ほどの男湯のお客さん一人が出てきて、番台の女将さんにクレームです。
「熱くて入っちゃいられねえよ。もう燃やさないでよ」
「おじいちゃんが、薪が残ってもしようがないからと言って、どんどん燃やしているのよ」
それを聞いて、しんみりしてしまいました… 今日を含めて、あと4日なのですね。常連さんも何も言い返せなくなってしまったようです…
女性客が一人、服を脱ぎながら、女将さんに話しかけています。
「こんな恰好で失礼ですが、お世話になりました。これからはどうぞゆっくりとしてくださいね」
外に出ようとしたら、番台の女将さんに呼び止められました。
「ヤクルトどうぞ」
見ると、冷えたヤクルトがたくさん置いてあります。これもそうですね… 一本ありがたくいただきました。
某銭湯のご主人が、お風呂屋さんへのお礼の言葉は「ごちそうさま」が正式だと、どこかで書いていました。
「ごちそうさま」 そして、55年間お疲れ様でした。 (ゆ)
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